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一目 — 雲の指標ではない理由

細田が第一に置いたのは時間論で、雲は付随的な一片にすぎず、一目の本体は時間論・波動論・値幅観測論の三大骨子です。

> 一目均衡表をチャートに表示してまず目に入るのが雲です。そのため「雲の上なら買い、下なら売り」を一目の核心と考える人が多くいます。しかし細田が第一に置いたのは時間論であり、雲は付随的な一片にすぎません。

名前の意味:一目で見る均衡

一目均衡表(いちもくきんこうひょう)という名前は三つの部分からできています。一目は一目で、均衡はバランス、表はテーブルです。相場の均衡状態を一目で見る表という意味です。名前のどこにも雲という言葉はありません。

英語圏ではこの指標を普通「Ichimoku Cloud」と呼びます。チャートに表示したとき最初に目に入るのが二本の線の間を埋めた雲なので、その部分を名前にしたわけです。細田が付けた名前の核心である均衡は、その名称から抜け落ちています。

均衡が指すのは買い方と売り方の均衡です。買う側と売る側の力がぶつかり合って止まった状態が均衡であり、その均衡が一方へ崩れる瞬間に相場がその方向へ大きく動く、という相場観が名前に込められています。一目均衡表は、この均衡が崩れる地点を一目で見るための道具です。均衡が崩れたかどうかを問うのが、この表の本来の使い方です。

名前の意味:一目で見る均衡
名前の意味:一目で見る均衡一目(一目で)・均衡(買い方・売り方の均衡)・表の三つの部分に名前を分解して示し、英語圏「Ichimoku Cloud」の名称には均衡が抜けていることを対比した図

均衡は平均線ではない

均衡を価格の平均や中間線として受け取る人がいます。転換線と基準線が区間の(高値+安値)÷2、すなわち中値で計算されるために生じる誤解です。ここでいう均衡は価格の算術平均を指しません。買い方と売り方という二つの勢力がぶつかり合って成り立った均衡のことです。

二つの概念は層が違います。中値の線は一定区間の高値と安値を足して二で割った値で、第1編で扱ったとおり高値・安値の更新がなければ平らに止まります。移動平均線のように毎足なめらかに追随することはなく、新しい高値や新しい安値が出たときだけ値が変わります。この線は均衡を測る物差しであり、二つの勢力の力がどちらへ傾くかは線どうしの位置関係で読みます。

細田が中値を採用した背景は二つあります。根底には、買い方と売り方が一定区間でぶつかり合って作った均衡値を一つの数値でつかもうという思想があります。その上に、高値と安値だけですぐ求められるという計算の便宜が加わりました。均衡値の思想が先であり、計算の便宜はその次の背景です。

なぜ雲だけが伝わったのか

細田悟一は新聞社の市況部記者の出身です。1935年に新東転換線(しんとうてんかんせん)という名前で自身の分析法を初めて発表し、多数の人員を動員して過去の相場を手で数え上げ、数値関係を練り上げました。その成果を七巻の原書に著し、この七巻は1969年から出始め、1981年に完結しました。五本の線と雲はその膨大な内容の一部であり、本体は時間論・波動論・値幅観測論の三理論です。

この三理論は文章で長く説き起こすべき内容なので、チャートの図だけでは伝わりません。一目が英語圏に知られたとき、この七巻は翻訳されず、文章は移されないまま、チャートの図だけが渡りました。チャートで一目で見えるのは五本の線とその間の雲だけなので、時間論・波動論・値幅観測論は図だけでは付いてこられなかったのです。

その結果、英語圏には雲を中心に置いた単純な使い方が定着しました。「価格が雲の上なら買い、下なら売り」は、この落差から生まれた使い方です。チャートですぐに読み取れる雲の上下だけを見て、細田が第一に置いた時間論をまるごと抜かしてしまったわけです。

なぜ雲だけが伝わったのか
なぜ雲だけが伝わったのか細田原書七巻の時間論・波動論・値幅観測論は文章でしか説明されず翻訳なしには伝わらず、チャートの五本の線・雲の図だけが英語圏へ渡った伝播構造を示す図

本体は三大骨子である

第6編で扱ったとおり、一目の本体は三大骨子、すなわち時間論・波動論・値幅観測論です。時間論は相場がいつ変わるかを足数で数え、波動論は相場がどのような形で動くかを見て、値幅観測論は相場がどこまで行くか目標値を測ります。いつ・どのように・いくらまでをそれぞれ受け持つ三本の軸です。

五本の線と雲は、この三理論をチャート上で補助する装置です。細田自身が三大骨子を本体に置き、五本の線をその下に置きました。五本の線だけを見て三大骨子を抜けば、一目の本体をまるごと空けたまま補助装置だけを使うことになります。

細田は三大骨子のなかでも時間論を第一に見ました。相場がいつ変わるかをまず問い、いくらまで行くかはその次に測ります。第10編で扱ったとおり、時間論は9・17・26のような足数と変化日で、相場が変わる地点をあらかじめ数えておきます。この9・17・26は導出関係でつながっています。17は9×2−1であり、26は9×3−2です。ラインの期間9・26・52と数字が一部重なりますが、二つは互いに異なる体系です。9・17・26は時間論の基本数値であり、9・26・52は五本の線を計算するラインの期間です。

予想と予測を分ける

細田の分析哲学は予想と予測を分けるところにあります。予想は、相場が上がりそうだという漠然とした思い込みです。予測は、相場が変わる地点をあらかじめ数値で測定しておき、その地点で相場がずれれば自分の論理を修正していく作業です。一目は予想を捨てて予測をするための道具です。

時間論を第一に置く規律はここから出ます。変化日をあらかじめ足数で数えておけば、相場がその地点で変わるかどうかをめぐって、自分の判断を検証できます。変化日に相場が変われば測定が当たったのであり、変わらなければ論理を直します。測定しておいた地点がなければ、相場を見てそのつど思い込みを変える予想から抜け出せません。いつをまず問う規律は、こうした予測の思想から出てくるのです。

均衡が崩れたかで読む

チャートを雲の上・下で読む習慣を下ろせば、そこに入ってくる問いは均衡が崩れたかどうかです。第1編で扱ったとおり、転換線は短期の流れの中心、基準線は中期の流れの中心です。二本の線が近く寄り添っていれば、短期と中期の中心が同じ位置にあって均衡が取れた状態です。二本の線の間隔が開く瞬間が、その均衡が一方へ崩れる地点です。

転換線が基準線の上へ開けば、短期の中心が中期の中心より速く上がったということなので、買い方へ均衡が傾いたことになります。転換線が基準線の下へ開けば、売り方へ傾いたことになります。価格が雲のどちら側にあるかよりも、この二本の線の間隔が開き始める地点をまず見ます。

均衡が崩れたかで読む
均衡が崩れたかで読む転換線と基準線が近く寄り添って均衡の取れた区間と、転換線が基準線の上へ開いて買い方へ均衡が崩れる区間を対比して示す図

価格が雲のどちら側にあるかは、均衡がすでに崩れた結果です。一方で二本の線の間隔が開くことは、均衡が崩れていく過程です。過程をまず見れば、結果を待たずに均衡が傾く地点をつかめます。

三役好転は確認、遅行スパンは一級フィルター

第5編で扱った三役好転は、三つの条件がすべて揃った状態です。第一に転換線が基準線の上にあり基準線が上向きか水平であること、第二に遅行スパンが26足前の価格の上にあること、第三に価格が雲の上にあることです。価格が雲を上に突破しただけでは三役好転ではなく、三つの層がすべて好転で揃わなければなりません。この三つの条件は、進入を始める引き金ではありません。均衡が一方へ崩れたことを事後に確認するチェックリストです。三つの条件が揃うころには相場はすでにかなり動いた後なので、三役好転を進入シグナルとして使えば常に遅れます。

三役好転を確認のチェックリストに格下げすれば、進入を決める地点はそれより前になります。転換線と基準線の間隔が開き始める地点でまず均衡が崩れるのをつかみ、三役好転の三条件で、その判断が当たったかを後ろから検算します。三つの条件は、均衡表好転から遅行好転を経て雲好転の順に揃っていくのが典型的なパターンですが、資産や区間によって順序がずれる例外もあります。

三つの条件のうち英語圏が最も軽く見たのが遅行スパンです。第3編で扱ったとおり、遅行スパンは今の価格を26足前の価格帯に直接突き合わせる線なので、今の流れが一ヶ月前の価格帯を実際に抜けたかどうかを最も確実に確認できます。細田は遅行スパンについて「一期の遅行スパン、これが最も大事」と直接述べています。五本の線のうち優先順位を付ければ遅行スパンが第一だ、という意味です。西洋式の使い方が抜かしたこの線を一級フィルターとして使い直せば、だましの突破をふるい落とせます。遅行スパンが26足前の価格帯を上に抜けられなければ、価格が雲の上にあってもセットアップとは見ません。

ショートも同じ構造で読む

売り方も対称で読みます。転換線が基準線の下へ開けば、売り方へ均衡が傾いた地点です。三役逆転は三役好転を裏返した三条件で、転換線が基準線の下にあり基準線が下向きか水平であること、遅行スパンが26足前の価格の下にあること、価格が雲の下にあることです。売りでも、遅行スパンが26足前の価格帯を下に抜けたかどうかが一級フィルターです。

値幅観測論も対称で適用します。第9編で扱ったN・V・E・NT計算値は、上昇の目標値を測るのと同じやり方で、高値を起点に裏返して下落の目標値を測ります。遅行スパンが26足前の価格帯を下に抜けられなければ、価格が雲の下にあっても売りのセットアップとは見ません。

何をまず見て何を後回しにするか

このシリーズを貫く再設計は、見る順序を変えることです。まず時間論で、いつ変化日が来るかを問い、その変化日の付近でだけシグナルを採用します。チャート上で次に見るのは、転換線と基準線の間隔、すなわち均衡が崩れる地点です。続いて、遅行スパンが26足前の価格帯をきれいに抜けたかどうかで、流れの真偽を確認します。

雲は最後に見ます。第4編で扱ったとおり、雲は買いシグナルではありません。雲は、価格がこれから出会う支持・抵抗帯の厚みと将来の地形であり、進入を決める地点ではありません。価格の上方の抵抗帯がどれほど厚いかを見積もる場面です。いくらまで行くかは、その次にN・V・E・NT計算値で測ります。いつを一番前に置き、いくらまでを一番後ろに置くわけです。

何をまず見て何を後回しにするか
何をまず見て何を後回しにするか時間論(いつ)→転換線・基準線の間隔(均衡の崩れ)→遅行スパン(真偽の確認)→雲(支持・抵抗の厚み)→値幅観測論(いくらまで)の順に見る順序を段階で並べた図

雲の上なら買いという一行で始めた人は、この順序を逆に置いてしまったのです。雲を一番前に、それだけを見たためです。一目を細田が置いたとおりに使うには、時間論を一番前に置き、均衡が崩れる地点をまず見て、雲は確認の最後尾へ後回しにします。