OptiNod アカデミー

Volume Delta — 積極的な買いと売りの差

アグレッサーサイドを基準にした買い・売りの差から、価格が停滞している局面で成行注文の圧力がどちら側に蓄積しているかを見ます。

通常の出来高は、そのローソク足で成立したすべての取引の合計であり、買いと売りが1つの数字にまとまって区別がつきません。Volume Deltaは、その中から積極的な買いと積極的な売りの差だけを取り出します。

買い手が板の売り気配を取りにいって約定した取引(taker buy)が積極的な買いであり、売り手が買い気配にぶつけて約定した取引(taker sell)が積極的な売りです。指値注文は、相手が来るまで待つ注文なので、価格を動かした主体とは見なしません。

この区別こそが、情報としての価値を分けるポイントです。あるローソク足で1,200 BTCの出来高があったという事実だけでは不十分です。その1,200 BTCの中で、板に積極的にぶつけていたのがどちら側だったのかが、次の価格方向を左右します。Volume Deltaで最も情報量が多いのは、価格とデルタが食い違う場面です。価格はほとんど動かないのに、デルタだけが一方向に積み上がる局面です。

Tick ruleの限界 — どのDeltaが本当のDeltaなのか

Volume Deltaをシグナルとして使う前に、まず確認すべきなのは、そのDeltaがどのように計算されているかです。

本当のDeltaは、取引所のアグレッサーサイドのフラグを基にします。Binance・Bybit・OKXのtrades APIは、約定ごとにis_buyer_makerフラグを付与しています。これがtrueなら売り手がアグレッサー、falseなら買い手がアグレッサーです。このフラグで分類して作られたDeltaは、取引所が実際に見ている買い・売りのフローそのものです。

問題は、少なくない個人向けチャートツールがtick ruleでDeltaを推定していることです。Tick ruleは、約定価格が直前より高ければ買い、低ければ売りに分類する方法です。

この推定には3つの欠点があります。第一に、価格が1ティック上で約定したからといって、常に積極的な買いが主導したとは限りません。第二に、指値と成行が区別されません。買い指値に売り手がぶつけた取引でも、tick ruleでは買いに分類されることがあります。第三に、同じ価格で複数の約定が起きると分類が曖昧になり、既定の分類に回されます。

この違いは、実際の結果を分けます。tick ruleで推定したDeltaは、取引所のアグレッサーフラグに基づくDeltaと約70%台しか一致しないという研究結果があります。チャートツールがどちらを使っているのか分からないままDeltaで売買するのは、約30%の場面で符号が逆のデータに賭けているのと同じです。

TradingViewのVolume Deltaは、取引所のデータ仕様によって異なります。Binance・Coinbaseのようにアグレッサーサイドを公開している取引所では本当のDeltaが使われ、公開していない市場ではtick ruleによる推定が適用されます。フットプリントチャートのプラットフォーム(Sierra Chart、ATAS、Bookmap)は、通常、本当のアグレッサーフラグを使います。

吸収と枯渇 — 価格が止まっている間に現れる2つの場面

価格が動かないのにデルタだけが一方向に積み上がる場面は、市場の中でも特にまれで、情報量の多い瞬間です。その中で、最もよく現れる形が2つあります。

  • 吸収(Absorption): 価格が一定の水準でそれ以上下がらずに持ちこたえている一方で、その方向とは逆のDeltaがローソク足ごとに積み上がる形です。売り手が積極的に板へ売りをぶつけているにもかかわらず(マイナスDeltaが累積しているにもかかわらず)、価格がほとんど動かないということは、誰かがその落ちてくる売りをすべて受け止めているという意味です。核心は、価格を押している側とは反対符号のDeltaが積み上がっているのに、価格が持ちこたえている点です。小口の買い手にはそれだけの資金力はないため、結果として大口の買いシグナルになります。
  • 枯渇(Exhaustion): 吸収とは見分けるポイントが異なります。トレンド方向と同じ符号のDeltaがピークを付けた後、ローソク足ごとに減っていく形です。上昇トレンドなら、買いDeltaがしばらく強く積み上がって価格を押し上げた後、同じ陽線が続いているにもかかわらず、買いDeltaの大きさが徐々に小さくなります。吸収が、反対符号のDeltaが積み上がっているのに価格が持ちこたえる場面だとすれば、枯渇はトレンドを押していた同方向のDeltaそのものがピーク後に消耗していく場面です。価格はまだ高い位置にあっても、さらに上へ進むために必要な積極的な買いの力が抜けてきていることを早めに知らせるシグナルです。
吸収は価格が持ちこたえる中で反対デルタが積み上がり、枯渇はトレンド方向のデルタがピーク後に減る

ETHが2024年7月中旬、3,000ドル付近の直前サポートで数日間横ばいになったとき、時間足ベースのCVDは明確に右肩下がりで積み上がっていました。売りが優勢だったにもかかわらず、価格はそのラインを割り込みませんでした。典型的な吸収の形であり、その後、価格は3週間で3,600ドルまで反発しました。

売りデルタが足ごとに累積しても支持帯を守り抜く吸収の典型

吸収セットアップ

> ETHの1時間足が、直前のサポート(例: 3,000ドル)付近で4時間以上横ばいになる局面です。

> 同じ4時間の間、時間ごとのDeltaがマイナスで連続して累積する一方、価格はそのサポートを終値ベースで割り込みません。

> Deltaがプラスに転じ、1時間足の終値が平均的な変動幅以上に上方向へ伸びた足の終値で買いエントリーします。

> 損切りはそのサポートの下に置きます。

> 価格がサポートを終値ベースで下抜けるか、再び1時間以上マイナスDeltaが累積した場合は、吸収失敗と見て手仕舞います。

重要なのは、価格が動かないのにデルタだけが積み上がる時間の長さです。1〜2時間程度の短いデルタ累積はノイズかもしれません。一方、4時間以上続く吸収は、時間単位で測定された買い意欲であり、偶然である確率は明らかに低くなります。1本のローソク足に出た一時的な偏りとは区別すべき場面です。

フットプリント — ローソク足の中のDelta分布

Volume Deltaがローソク足単位の合計だとすれば、フットプリント(Footprint)チャートは、ローソク足の内部で価格帯ごとの買い・売り分布まで表示します。その足の中で取引された価格帯ごとに、買い・売りの出来高を小さな数字で示す方法です。1本の足を単純なローソク足として描くのとは扱いが違います。

このデータによって、Deltaがローソク足のどこで発生したのかを確認します。同じ陽線でも、足の上部で売りDeltaが大きい足は上で売りが吸収された場面であり、足の下部で買いDeltaが大きい足は下で買いが吸収された場面です。その意味はまったく異なります。フットプリントがなければ、どちらも同じ形の陽線に見えます。CVDだけでは方向は分かっても深さは見えず、フットプリントはその深さを直接見せてくれます。

Delta divergence — 価格ダイバージェンスより一歩早い

CVD(Cumulative Volume Delta)は、Deltaを時系列で累積したラインです。CVDダイバージェンスとは、価格は新高値を付けているのに、CVDは直前高値より低い位置にとどまるパターンです。

OBVダイバージェンスと形は似ていますが、精度は一段上です。OBVはローソク足の終値方向だけを見て、その足の全出来高を一方に分類します。終値が始値よりわずかに上なら、その足全体が買いとして分類されます。一方、CVDは足の中の買い・売り比率を直接見ます。同じ陽線でも、足の中で買いが優勢だったのか、売りが吸収されて最後に買いがわずかに勝っただけなのかが、CVDにそのまま反映されます。

この精度の違いが、タイミングの違いを生みます。CVDダイバージェンスは、通常、価格ダイバージェンスより一歩早く現れます。価格チャートとOBVがどちらも新高値を作っている足で、CVDはすでに止まっているか、わずかに下がり始めていることがよくあります。足の内部で起きている売りの吸収は終値にはほとんど表れませんが、CVDの足内部の分類にはそのまま反映されるためです。

この違いが、シグナルのタイミング上の優位性になります。つまりCVD divergenceは警告であり、価格構造が崩れること、またはOBVダイバージェンスが出ることがエントリーシグナルです。

Perp市場におけるDeltaの意味の混同

無期限先物の買いDeltaには、新規ロング建てとショートの買い戻しが混ざっています。どちらも買い側の攻撃なので同じ符号で積み上がりますが、意味はまったく異なります。新規ロングは資金が入って価格が上に向かう流れであり、ショートの買い戻しは資金が抜けていく一時的なスクイーズです。

買いDeltaだけでは、この2つを分けられません。併せて見るべきなのがOIです。買いDeltaとOI上昇が同時に出ていれば新規ロング建て(トレンド継続)であり、買いDeltaとOI低下が同時に出ていればショートカバー(買い戻し主導の反発)です。売りDeltaも同じ考え方で、新規ショート建てとロングの投げに分かれます。結局、Perp市場でDeltaを見るときは、常にOIとセットで確認します。

Deltaが意味を失う場面

出来高の少ないアルトコインのDeltaは、大口取引が1〜2件入るだけで全体が大きく振れるため、統計的な信頼性が低くなります。そのためDeltaは、BTC・ETHのようなメジャー銘柄と主要取引所(Binance・Coinbase・Bybit)でのみ安定して機能します。

時間帯ごとの構造的な偏りもあります。米国市場のオープン時間帯、アジア市場のクローズ時間帯には、Deltaが一方向に偏りやすい傾向がデータに蓄積されています。絶対的なDelta値だけでシグナルを作ると、こうした時間帯の偏りを売買シグナルとして誤読してしまいます。その時間帯の通常の分布と比較した相対Deltaとして見る必要があります。

第三に、データソースの一貫性です。Binance Spot DeltaとBinance Perp Deltaは別の市場なので、2つのDeltaを混ぜて累積すると意味のないラインになります。1つの市場のDeltaを一貫して追跡する必要があります。

2つの重なりでDeltaの重みが増す

  • Volume Profile(POC): 出来高が多く積み上がった価格帯(Point of Control)でのDeltaの流れが最も重要です。POCは、市場がその価格帯で重要な判断を下した痕跡であり、その場所での吸収は機関投資家の参入である可能性が高くなります。反対に、POCの外で発生するDeltaはノイズの比率が高くなります。
  • OIの変化: Perp市場では、OIとDeltaを併せて見て、新規建てと清算を分けます。買いDeltaとOI上昇が同時に出ていればトレンド継続、買いDeltaとOI低下が同時に出ていれば短期的なスクイーズと見ます。
価格は新高値を更新するのにCVDは直前高値を超えないダイバージェンスの警告