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ワイコフ・メソッド — Distributionの5フェーズとUTAD(第3回)

DistributionはAccumulationの鏡像ですが、時間と出来高のパターンは非対称です。UT・UTADが最後の流動性を吸収し、本当のエントリーポイントはLPSYです。

> DistributionはAccumulationの鏡像です。ただし、まったく同じではありません。恐怖は強欲より速く動くため、時間と出来高のパターンには偏りが生じます。

前回では、Accumulationの5つのPhaseを整理しました。Distributionはその鏡像ですが、完全なコピーではありません。同じ5フェーズ構造をたどりながらも、時間の圧縮率と出来高の分布が異なります。

Phase Aでは上昇が止まり、PSY(Preliminary Supply)・BC(Buying Climax)・AR(Automatic Reaction)・ST(Secondary Test)の4つのイベントが順に進みます。続くPhase Bでは、大口が天井圏のレンジ内で分配を続けます。その後、Phase CでUT(Upthrust)またはUTAD(Upthrust After Distribution)によって最後の流動性を吸収し、Phase DのLPSY(Last Point of Supply)とSOW(Sign of Weakness)でトレンドが崩れ、Phase EのMarkdownへ進みます。

一般的な解釈では、DistributionをAccumulationの単純な鏡像と見なし、UTADを「だましのブレイクアウト」パターンの一言に圧縮しがちです。そう見ると、次の2点を見落とします。

  • 時間の進み方: Distributionの進行は、Accumulationより平均で30〜50%短くなります。恐怖に押された売りは、強欲に支えられた買いより速く動くためです。
  • UT・UTADのメカニズム: UT・UTADは、レンジ上限の上に溜まった損切り注文や逆指値注文が吸収される場所です。Springとは正反対の位置で正反対の意味を持ちますが、メカニズム自体は同じです。

一段深く見るべきポイントは2つあります。

  • 偏りを認める: 時間と出来高が一方向に偏るという事実を、そのまま受け入れることです。
  • 早すぎるエントリーを避ける: Phase Bで弱気セットアップに早く入りすぎないことです。

Phase Bは分配が進んでいる時期でありながら、価格はまだ上昇基調に残っている局面です。そのため、カウンタートレンドのショートは何度も振り落とされます。結局、本当のエントリーポイントはLPSYのローソク足シグネチャーであり、それ以前の区間は待つ時間と考えます。

天井圏レンジで順に進むDistributionの5フェーズと各フェーズの主要イベント

Phase A — 上昇停止を示す4つのイベント(PSY・BC・AR・ST)

Phase Aは上昇トレンドが止まる段階であり、Accumulation Phase Aの鏡像です。4つのイベントが順番に進みます。

  • PSY(Preliminary Supply): 最初のイベントです。上昇トレンドの中で初めて出来高が大きく増え、ローソク足の終値が足の中段付近で引ける足が出ます。大口が意味のある売り玉を初めて市場に出したサインであり、価格はその後も数日から数週間上がることがありますが、上昇の質は変わります。
  • BC(Buying Climax): 2つ目のイベントです。直近50〜100本の中で最大級の出来高を伴って大陽線が出ます。一般参加者が「今買わないと乗り遅れる」という心理で入ってくる場所であり、その買いを大口が受け止めながら分配を加速させます。このときBC足の終値は足の中段から上段の間で引け、売りが入った痕跡を残します。
  • AR(Automatic Reaction): 3つ目のイベントです。BCの買いが尽きた直後に起こる急落局面であり、同時に天井圏レンジの下限を初めて描くイベントでもあります。BC高値から5〜15%の下落が一般的で、ARが到達した価格がそのままPhase Bレンジの下限になります。
  • ST(Secondary Test): 4つ目のイベントです。ARの後、価格が再びBC高値付近まで戻ろうとする試みです。重要なのは、STの出来高がBCより明確に減る点です。BC高値を超えられずに引けると、そこでレンジ上限が確定します。

NVDAの2021年11月のケースでは、この4つのイベントがすべて確認できます。11月22日のPSY(出来高1.8倍)、11月29日の333ドルBC(直近50本で最大出来高、足の上部で引けず)、5営業日にわたる290ドル台までのAR、12月初旬の311ドルST(BC出来高の半分、333ドルの再突破に失敗)が順に形成され、その後1か月にわたって290〜320ドルのレンジがPhase Bとして続きました。

Phase B — 分配中でも、価格はまだ上がっている

Phase BはDistributionの中で最も長く、罠の多い段階です。天井圏レンジ内で価格は上限と下限の間を往復し、大口はレンジ上限付近でローソク足ごとに静かに売り玉を流していきます。一般参加者には、単なるレンジ相場の普通の変動に見えます。

最大の罠は、Phase Bで弱気セットアップに早く入りすぎることです。天井圏レンジを確認した多くのトレーダーは、「分配中だからレンジ上限でショート」という結論に向かいます。しかしPhase Bのレンジ上限は、まだ上抜けの可能性が残っている場所です。UTADが入って初めて、レンジ上限が確定します。

Phase Bの長さには偏りがあります。Accumulation Phase Bは平均8〜12週間かかりますが、Distribution Phase Bは平均4〜8週間で終わります。大口も、分配を長引かせると価格が自然に崩れ始めるリスクを理解しているため、買い集めより分配の段階を短く圧縮します。

ここで見るべきなのは、出来高分布が一方向に偏るという事実です。Accumulation Phase Bでは、レンジ下限に触れるときの出来高が大きくなりました。Distribution Phase Bではその逆で、レンジ上限に触れるときの出来高が徐々に減り、レンジ下限に触れるときの出来高が徐々に増えます。買いが枯れ、売りが積み上がる流れが、そのまま出来高に表れます。

SPYの2021年12月〜2022年1月のケースは明確です。12月初旬に470ドル台のレンジが形成された後、12月27日に478ドルまでレンジ上限を一時的に試してからレンジ内へ戻りました。その直後、日足出来高はレンジ上限に触れるときが平均7,000万株、レンジ下限に触れるときが平均1億1,000万株で、ほぼ2倍の差が出ました。この差が、Phase CのUTADまで約2週間残っているというシグナルでした。

Phase Bでレンジ上限の接触は出来高が減り、下限の接触は増える偏り
買いの枯渇と売りの蓄積が出来高に表れるPhase Bの分配構造

Phase C — UT・UTADによる最後の流動性狩り

Phase CはDistributionで最も決定的な段階です。大口が価格を天井圏レンジの上へもう一度押し上げ、レンジ上限の上に置かれたストップ注文と追随買い注文をまとめて受け止めます。AccumulationのSpringとは正反対の位置で正反対の意味を持ちますが、メカニズム自体は同じです。

UT(Upthrust)は、レンジ上限をわずかに上抜けてから戻ってくる小さなだましのブレイクアウトです。UTAD(Upthrust After Distribution)は、レンジ上限を明確に突破して新高値まで作ったものの、維持できずにレンジ内へ落ちる、より大きなだましのブレイクアウトです。UTADがより強い弱気シグナルになるのは、ブレイク幅が大きいほど、それだけ大きな売り玉を受け止めたことを意味するためです。

レンジ上限をわずかに抜けるUTと、新高値まで突破して崩れるUTADの違い

UTADのシグネチャーは3つあります。

  • ブレイク足の出来高: レンジ上限を終値ベースで上抜ける足が、大きな出来高増加を伴って出ます。
  • 終値の位置: その足の終値が足の上端まで届きません。
  • 早いレンジ復帰: その後1〜5本以内に、価格が終値ベースでレンジ上限の下へ戻ります。

UTAD直後にはTest of UTが出ることがよくあります。レンジ内へ戻った価格が再びレンジ上限付近まで上がりますが、出来高はUTAD足より減り、レンジ上限を再び超えられません。このTestが、LPSYエントリーの確認シグナルです。

> NVDAでは、2021年11月29日のBC後に天井圏レンジが290〜333ドルで形成されていた状態で、

> 2022年1月4日の日足がレンジ上限(333ドル)を終値ベースで上抜け、346ドルの新高値で引けます。

> 同じ足の出来高は直近20本平均の1.7倍を超えますが、終値は足の中段から上段の間に位置します。

> 次の3本以内に価格が333ドルを終値ベースで下回れば、UTAD確定と見ます。

> Test of UTが出来高減少を伴い、320ドル台でレンジ上限の再突破に失敗した足の終値でショートに入ります。

> 損切りはUTADの新高値(346ドル)の上に置きます。

> Testの価格がレンジ上限(333ドル)を終値ベースで再び上抜けた場合は、UTADという見方を撤回します。

このセットアップがPhase Cの標準的なエントリーです。リスクはUTAD新高値から損切りまでの距離に限定され、価格がレンジ下限まで下がれば、リスクリワードは2:1以上になります。

出来高急増・終値未達・速い復帰で確定するUTADとTest of UTのショートエントリー
吸収した売り玉の大きさで分かれるUTとUTADのだましブレイクの強さ

Phase D — LPSYとSOWのローソク足シグネチャー

Phase Dは分配が終わり、本格的な弱気局面へ移る段階です。UTADで作った最後の高値はもう試されず、価格は天井圏レンジの下限へ向かって滑り始めます。重要なイベントは2つです。

  • LPSY(Last Point of Supply): 最初のイベントです。UTADまたはTest of UTの後、価格がレンジ内で最後の反発を試みますが、その反発がレンジ中段から上段の間で止まる足が出ます。出来高は直前の反発より減り、終値は足の中段より下で引けます。LPSYが最も安定したショートエントリーになるのは、分配がほぼ終わり、追加の買いを期待する根拠が消えているためです。
  • SOW(Sign of Weakness): 2つ目のイベントです。LPSY直後に出来高が大きく増え、レンジ下限を終値ベースで割り込む大陰線が入ります。この足がPhase E Markdownの起点です。SOWの出来高がLPSY直前の反発出来高より大きいほど、Markdownは強くなります。

LPSYが本当のエントリーポイントである理由は、リスクリワードにあります。UTADやTest of UTまでは損切り幅こそ短いものの、レンジ下限まで下がるのに時間がかかります。一方、LPSYではレンジ下限までの距離がより近くなります。

BTCの2021年4〜5月のケースを見ます。4月14日の64,800ドルBCの後にレンジが形成され、4月末のUTADに続いて5月初旬に56,000ドル台でLPSYが出ました(出来高は直前1週間の反発平均より30%少なく、終値は足の中段より下で引けました)。続いて5月19日、SOWがレンジ下限(50,000ドル)を終値ベースで割り込み、30,000ドル台までのMarkdownが始まりました。Markdownが終わった時点で、リスクリワードは8:1を超えていました。

Phase E — Markdownの加速構造

Phase Eは、天井圏レンジの下限を割り込んだ後に価格が加速度的に下落する段階です。AccumulationにおけるMarkupの鏡像ですが、より短く激しく進みます。3つの部分に分かれます。

  • Initial decline: レンジ下限を割り込んだ直後の最初の5〜10本で、価格が大陰線を連続して描きながら下落します。出来高は足ごとに大きく増え、レンジ下限は今度は新たなレジスタンスとして機能します。レンジ下限付近まで戻るプルバック足の終値がレンジ下限の下で引ける限り、すべてのプルバックが追加ショートのエントリーポイントになります。
  • Mid-trend rallies: 急な初期下落の後、価格は何度か反発を試みますが、そのたびに高値を切り下げるlower highの連続を作ります。この反発はトレンド内のプルバックであり、EMA(20)やEMA(50)で止まることがよくあります。そのため、カウンタートレンドで入ると毎回Whipsawに巻き込まれます。
  • Capitulation: トレンド下部で、直近100〜200本の中で最大級の出来高を伴って大陰線が一気に入る場所です。一般参加者の最後の損切りが発生します。この足の後、価格がV字反発や横ばいに転じることが多く、その場所が次のAccumulation Phase AのSC(Selling Climax)につながることもあります。

TSLAの2021年11月〜2022年1月のケースでは、この3つがすべて出ています。11月4日の1,243ドルBC後、1か月にわたって分配が進み、12月末のレンジ下限割れでinitial declineが始まりました。1月初旬までの1,050ドルから930ドルまでの陰線連続がinitial declineで、1月中旬に1,000ドル台のEMA(20)で止まった反発がmid-trend rally、1月27日に829ドルまで下げた足が直近100本で最大の出来高を伴い、capitulationとして機能しました。

初期急落・切り下がる戻り・出来高ピークの投げ売りへ続くMarkdownの3部構造

DistributionとAccumulationにおける時間・出来高の非対称性

DistributionとAccumulationの間には、3つの違いがあります。

  • 時間の進行速度: Accumulationの全サイクルは平均3〜6か月、長ければ1年以上かかりますが、Distributionの全サイクルは平均1.5〜3か月で終わります。Markdownの加速が始まると、大口が意図した速度より価格が速く下落するため、分配はその加速が始まる前に短く圧縮して終える必要があります。
  • 出来高分布: Accumulation Phase Bでは、時間が経つほどレンジ下限に触れるときの出来高が減ります。Distribution Phase Bでは逆に、レンジ上限の出来高が減り、レンジ下限の出来高が増えます。
  • Phase Cイベントの強度: AccumulationのSpringはレンジ下限をわずかに割り込んでから素早く戻す小さなイベントですが、DistributionのUTADはレンジ上限を明確に突破して新高値まで作る大きなイベントです。買い集めではレンジ内でも売り玉が自然に出てきますが、分配では価格をレンジ上方へ引き上げて、追随買いとショートのストップをまとめて受け止める必要があるためです。

この違いを認めないと、Accumulation分析に慣れたトレーダーはDistributionを長く見すぎる罠にはまります。Phase Bが4週目に入っているのに「まだ分配中だろう」と考えてエントリーを遅らせると、LPSYのエントリーポイントを逃し、Markdownが始まってから入ることになります。

  • 罠1、Phase Bのレンジ上限で早すぎるショート: UTADが入って初めてレンジ上限は確定します。UTAD前のレンジ上限でショートを取ると、毎回UTADのだまし上げに振り落とされます。
  • 罠2、UTをUTADと誤認する: UTはレンジ上限を少し上抜けてから戻す小さなだましのブレイクアウトであり、分配が終わったサインとは見なせません。UTADが入って初めてPhase Cが閉じます。
  • 罠3、Markdown中のカウンタートレンドエントリー: Mid-trend ralliesはEMA(20)・EMA(50)で止まることが多く、戻りが終わる場所のように見えます。しかし出来高は反発中に減っており、大口はまさにその場所で追加ショートを入れます。

LPSY・UTADシグナルの精度を高める2つの要素

Distributionセットアップの精度を上げるには、2つをあわせて見る必要があります。

出来高で確認する。 UTAD足の出来高が直近20本平均の1.5倍以上で、終値が足の中段より下で引ける。この2条件がそろって初めて、本物のUTADと見ます。出来高が伴わないレンジ上限のブレイクは、むしろ本物の上抜けである可能性が高くなります。LPSYも同じです。レンジ内の反発足の出来高が、直前の反発群の平均より明確に減っていることが、LPSY確定の最初の条件です。

上位時間軸の文脈。 日足のUTADは、週足トレンドの高値圏付近で起きてこそシグナルに重みが出ます。週足が明確な上昇トレンドの途中にあり、日足だけでUTADが出ている場合、それは週足トレンド内の一時的な変動にすぎません。反対に、週足が天井圏レンジ内にある、または週足自体にBC・ARが見える場所で日足UTADが入るなら、それが本当のシグナルです。

次回では、出来高をさらに深く掘り下げるVSA(Volume Spread Analysis)とWeis Wavesを扱います。

Accumulationより短く圧縮され出来高が逆に偏るDistributionの時間・出来高の非対称