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Wyckoff Method — VSAとWeis Waveの現代的アップデート(第4回)
VSAのローソク足ごとのシグネチャーと、Weis Waveの方向単位で集計する出来高が、ワイコフのフェーズ識別をローソク足ごとに測れる形にします。
> Williamsのローソク足単位のシグネチャーと、Weisの方向単位の出来高は、ワイコフのフェーズ識別をローソク足ごとに測れる作業に変えます。
前の3回では、ワイコフの本質である3つの法則、Accumulation(アキュミュレーション/買い集め)の4段階、Distribution(ディストリビューション/分配)の4段階を扱いました。第4回と第5回では、ワイコフの現代的な変形を取り上げます。第4回では、Tom Williamsが1993年の著書 *The Undeclared Secrets That Drive the Stock Market* で整理したVolume Spread Analysis(VSA)と、David Weisが2007年の *Trades About to Happen* で発展させたWeis Waveという2つのツールを見ていきます。第5回では、同じツールが暗号資産市場やアルゴリズム取引市場でどのように変化するかを扱います。
一般的な解釈では、VSAは出来高系インジケーターの一種と見なされ、Weis Waveは累積出来高ラインの変種としてOBVと同じ枠に入れられがちです。しかし、この分類では、この2つのツールがワイコフのどの限界を補っているのかが見えません。
Williamsは、ワイコフの直観、つまり出来高と価格スプレッドの関係が大口の意図を示すという考え方を、ローソク足単位のチェックリストに変換しました。No Demand、No Supply、Stopping Volume、Climactic Volumeといった名前の付いたローソク足のシグネチャーを見ることで、現在のチャートがワイコフのどのフェーズにあるのかを1本ごとに判定できます。
一方でWeisは、出来高を集計する単位そのものを設計し直しました。通常の出来高バーが1本のローソク足につき1本の棒として時間軸に沿って並ぶのに対し、Weis Waveは価格の方向が同じローソク足をまとめ、1本の棒として合算します。そのため、トレンドのEffortが維持されているのか、それとも弱まっているのかを1本のラインで確認できます。

VSAの4つのローソク足シグネチャー — No Demand・No Supply・Stopping・Climactic
VSAは、1本のローソク足を3つの要素で読むところから始まります。終値の位置(足のどのあたりで引けたか)、スプレッド(高値と安値の距離)、出来高です。この3つを合わせて見ると、ローソク足ごとにEffortとResultの関係が見えてきます。Williamsが名前を付けた中核的な4つが、No Demand、No Supply、Stopping Volume、Climactic Volumeです。
- No Demand: 陽線でありながらスプレッドが狭く、出来高が直前の足より明確に少ない足です。価格は上がっていますが、その上昇を作った買いの量が乏しい状態です。Effortが小さいのにResultだけが出ている場面で、Distribution後半や弱い反発の終盤によく現れます。
- No Supply: 陰線でありながらスプレッドが狭く、出来高が明確に少ない足です。価格は下がっていますが、その下落を作る売りが存在しない足です。AccumulationのPhase C・Dでよく現れ、売りが枯れたことを示します。
- Stopping Volume: 大きな下落トレンドの中で、巨大な出来高を伴うワイドな陰線として始まりながら、足の中で売り圧力が吸収され、終値が足の上部まで戻って引ける足です。大口が殺到する売りを丸ごと受け止めた場面で、AccumulationのSelling Climax(SC)やSpringの直前・直後によく見られます。下方向に入った大きなEffortが価格を押し下げきれず、終値が上に戻ること、つまりEffortとResultが売り方向とは逆にずれることが、このシグネチャーの核心です。
- Climactic Volume: 上昇トレンドの終盤で出来高が大きく増え、ローソク足のスプレッドがATRの2倍以上に広がり、終値が足の下側で引ける足です。大口が一気に保有分を売り抜ける場面であり、DistributionのBuying Climax(BC)のようなイベントをローソク足単位で示した形です。そのため、Climactic Volumeの足の高値は、その後数か月にわたって戻らないことが少なくありません。
NVDAが2024年6月に140ドル付近で付けた新高値では、日足出来高が直前20本平均の3.2倍、ローソク足のスプレッドがATRの2.5倍、終値は足の下部25%の位置でした。典型的なClimactic Volumeであり、その高値はその後5か月間戻りませんでした。
同じ時期、BTCが2024年8月に49,000ドルまで下落する過程で、8月5日の日足は出来高が直前平均の4倍に達するワイドな陰線でした。しかし、49,000ドルの安値から終値は54,000ドル付近まで、足の上部へ回復して引けました。これはStopping Volumeの正確な形であり、その後4週間で価格は65,000ドルまで回復しました。

VSAはワイコフのフェーズをローソク足単位で判定できるようにします
Part 2・3で扱ったAccumulationとDistributionの5つのフェーズには、過ぎてからでないと認識しにくいという限界がありました。VSAのローソク足単位のシグネチャーは、この限界を1本ごとの解像度まで落とし込みます。
- Phase A: 大きな下落トレンドの中でStopping Volumeの足がSC(Selling Climax)候補として捉えられ、数日以内に出来高が減少した反発足(AR)が続けば、開始がローソク足単位で確認されます。
- Phase B: Trading Range内でNo Supplyの足が繰り返されればAccumulation寄り、No Demandの足が繰り返されればDistribution寄りに分かれます。2つのシグネチャーの比率がフェーズの方向を決めます。
- Phase C: Springの足は、大きな出来高を伴う下落足として始まりながら、終値が足の上半分より上へ回復する足です。同じ足の中で、EffortとResultが正反対の方向を指します。反対方向のUTADは、大きな陽線で新高値を作った後、終値が足の下部へ沈む鏡像の形です。
- Phase D・E: SOSは、レンジ上限を大きな陽線で突破しながら出来高が大きく増え、スプレッドがATRの1.5倍以上になる足です。スプレッドと出来高の両方が明確に大きければ、大口も参加したブレイクアウトと見なし、Phase Eの可能性が高まります。
SOLが2024年8月に130ドル台から9月の240ドルまで上昇する過程で、8月5日〜18日のレンジ日足をVSAで見ると、No Supplyの足が5回繰り返され、Stopping Volumeが1回出た典型的なPhase Bのシグネチャーが確認できます。レンジ上限を突破した足(8月25日)は、出来高3.5倍、ATR1.8倍の陽線でSOSシグネチャーと一致し、Phase D入りがローソク足単位で確認された後、5週間の上昇が続きました。

Weis Wave Volume — 方向単位で合算する出来高
通常の出来高バーは時間単位で描かれ、1本のローソク足につき1本の棒が時間軸に沿って並びます。この方法は1本の足の出来高を正確に示しますが、1つのトレンドが形成される間に入ってきた総資本を直接示すことはできません。トレンドが7本の足にわたって続くと、出来高バーは7本に分散するため、その合計を頭の中で足し合わせる必要があります。
David Weisが解いた問題は、まさにこの集計単位です。上昇が始まった足から終わる足までの出来高を1本の棒に合算し、下落が始まった足から終わる足までの出来高も1本の棒に合算します。すると、トレンド方向が変わるたびに新しい棒が始まる出来高チャートになり、それぞれの棒の高さが、そのwaveの間に入った総出来高を表します。
waveを区切る基準は反転しきい値(reversal threshold)です。日足では通常、2〜3%またはATRの1.5倍をしきい値とし、価格が直前のwaveの終点からこのしきい値分だけ反対方向へ動くと、新しいwaveが始まります。したがって最初のステップは、自分が扱う資産にとって意味のある平均的な調整幅に合わせて、しきい値を決めることです。
ETHが2024年11月に2,500ドルから12月の4,000ドルまで上昇する過程を日足のWeis Waveで描くと、大きなwaveは3つに分かれ、累積売買代金(出来高 × 価格)は12億ドル → 18億ドル → 9億ドルと推移します。Weis Waveは本来、出来高(コイン・契約・株数)を合算するツールですが、暗号資産では売買代金に換算すると資産間の比較がしやすくなります。
3つ目のwaveで売買代金が明確に減っていることが、1つのチャート上にそのまま表示されます。価格は同じトレンド方向へ上昇していましたが、Effortは弱まりつつありました。その結果、12月中旬に価格は3,500ドルまで調整しました。
Waveバーの高さこそEffortの実際の大きさです
Weis Waveのトレード上の価値は、waveバーの高さがどう変化するかにあります。1つのトレンド内で、同じ方向のwaveの出来高が増えているのか減っているのかが、そのトレンドの原因が維持されているのか、弱まりつつあるのかを教えてくれます。
- Waveの減少傾向: 上昇トレンドの中で、上昇waveの出来高が順に減っていくパターンです。新高値を作る資本が徐々に乏しくなっていることを直接示します。そのため、Phase Bの始まりがwaveの減少として現れることがよくあります。
- Waveの増加傾向: 上昇waveの出来高が順に増えていくパターンで、Phase Eにおける健全なマークアップのシグネチャーです。Effortがトレンドに伴っていることが、waveバーの右肩上がりの形として見えます。
- 調整wave: 同じ原理で読みます。調整waveの出来高が小さく、短く終わるなら、トレンドは健全だと見ます。反対に、調整waveの出来高が直前の上昇waveを上回り始めたら、トレンド転換の一次シグナルです。
NVDAの2024年2月〜6月の日足マークアップ局面で、上昇waveの出来高が第1波8.5億株、第2波12億株、第3波15億株と順に増えた流れは、Phase Eの教科書的なシグネチャーです。一方、同じ銘柄が2024年7月の新高値直後、8月のレンジでは、上昇waveの出来高が9.2億株 → 6.8億株 → 4.5億株と順に減り、調整waveの出来高は逆に増えました。これはPhase B入りを示すwaveシグネチャーになりました。
VSAとWeis Waveの組み合わせ — Phase Bの買い集めとPhase Eのトレンドを検証する
VSAはローソク足単位で精密なシグネチャーを示し、Weis Waveはトレンド単位で大きな流れを示します。2つのツールは見ている時間解像度が異なるため、併用すると片方がもう片方のノイズを取り除いてくれます。
Phase Bの買い集めは、2つの次元が一致したときに確認されます。レンジ内でNo Supplyの足が繰り返し出ているとき、同じレンジのWeis Waveで下落waveの出来高が上昇waveの出来高より小さいかを見ます。ローソク足単位では売りが乏しく(VSA)、トレンド単位でも売り資本が買い資本より小さい(Weis Wave)という結論が一致すれば、買い集めの信頼度は一段上がります。
Phase Eのトレンドは、レンジ上限を突破する足がSOSシグネチャーを満たしたとき、その後数日のWeis Waveで最初の上昇waveの累積出来高が、直前レンジ内のどのwaveよりも大きいかを確認します。両方の条件がそろえば、Phase Eが実際に始まったと見ます。
> SOLの日足が130〜145ドルのレンジで4週間横ばいになっており、
> その4週間の間に日足VSAでNo Supplyの足が5回以上繰り返し現れ、
> 同じレンジのWeis Waveで下落waveの平均出来高が上昇waveの平均出来高の70%以下です。
> 価格がレンジ上限(145ドル)を終値ベースで突破する足の出来高が直前20本平均の2倍以上、
> 同じ足のスプレッドが日足ATRの1.5倍以上で、終値が足の上部25%より上で引けます(SOSに一致)。
> その足の終値で買いエントリーします。損切りはレンジ中央(137ドル)の下に設定します。
> エントリー後5本以内に、新しい上昇waveの累積出来高が直前レンジ内のどのwaveよりも小さければ、SOS失敗と見て手仕舞います。
分配レンジでの売りセットアップは、これをそのまま逆に考えればよいです。No Demandの足がレンジ内で繰り返され、Weis Waveの上昇wave出来高が順に減り、レンジ下限をSOWシグネチャー(ATR1.5倍の陰線で出来高が大きく増えた足)で終値ベースで割り込む場面が、セットアップの骨格です。
エントリーはその足の終値で行い、損切りはレンジ中央の上に置きます。価格が5本以内に終値でレンジ内へ戻った場合は、無効と見なします。
2つのセットアップに共通する骨格は3層です。ローソク足単位のシグネチャー(VSA)+トレンド単位の検証(Weis Wave)+価格構造の確認(レンジの終値ブレイク)です。1層でも欠けたエントリーは、結局どちらか一方のツールだけを使ったエントリーと同じ信頼度まで落ちます。

VSA・Weis Waveを使うときに陥りやすい3つの罠
- 出来高の絶対値でシグネチャーを判定する: VSAのすべてのシグネチャーは、直前の足と比べた相対出来高で定義されます。たとえばStopping Volumeの基準は「直前20本平均の2倍以上」のような相対値です。絶対値で固定すると、出来高が多い時期には偽のシグネチャーが頻発し、少ない時期には本物のシグネチャーを見逃します。
- Waveの反転しきい値を資産に関係なく固定する: BTCの日足に3%を適用するとwaveはほどよい頻度で分かれますが、同じ3%をSPYの日足に適用すると、1つのwaveが数か月続くことがあります。そのため、SPYのような低ボラティリティ資産では0.5〜1%、DOGE・SHIBのような高ボラティリティ資産では5〜7%まで広げます。まず自分が扱う資産について、過去1年の意味のある調整幅の平均を測り、その値をしきい値として使います。
- VSAシグネチャー1つだけを見てエントリーする: No Supplyの足1本やStopping Volumeの足1本だけでエントリーするのは、シグネチャーをエントリーシグナルとして誤用している状態です。VSAのシグネチャーは、いま市場がどのような状態にあるかを示すだけです。本当のエントリーは、その場で価格構造が変わるとき、つまりSOSの足、Springからの回復、レンジの終値ブレイクで成立します。
VSA・Weis Waveシグナルの精度を高める2つの要素
上位時間軸のwave方向。 1時間足のVSA・Weis Waveシグナルが4時間足のトレンド方向と一致すると、信頼度は明確に上がります。反対に、4時間足のwaveが減少傾向にある中で1時間足にStopping Volumeが1回出ただけなら、短期反発にとどまる可能性が高いため、この場合はエントリーサイズを落とすか、見送ります。
レンジの期間と価格帯の意味。 Phase BのNo Supplyの反復が本物の買い集めシグナルになるには、レンジが少なくとも3週間以上続いている必要があります。1〜2週間のレンジ内のNo Supplyは、単に一時的に売りが出ていないだけのノイズかもしれません。そのレンジが過去の大きなサポート付近にあるなら、信頼度はさらに一段上がります。価格構造は買い集めが起こりやすい場所を示し、VSAはその場所で時間がどのように進んでいるかを確認してくれます。2つの次元がそろったとき、Phase Bシナリオの重みをローソク足単位で測れる水準になります。